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この間の総裁人事騒ぎは、新N銀法下で五年を経過したN銀がどう変わったのかという問いへの一つの答えでもあった。
それは、現役の総裁以下が組織を挙げての次期総裁いた。
キャンペーンを張ったことの異常さである。
すでにみたように新N銀法では、N銀の金融政策の独立性を確保すると同時に、N銀の独善性を排するために、総裁以下、政策委を構成する審議委員は全員、内閣の任命と国会両議員の同意を得る手続きを定めている。
任命者は内閣、すなわち内閣総理大臣の権限だ。
旧法のように実質的にN銀と大蔵省が輪番で総裁の座を占め、内閣がそれを追認するような慣習は否定されたはずである。
そうして選ばれた総裁を含む政策委の九人の委員は、金融政策の運営においては、N銀の事務方とも一線を画して自らの責任で政策を決める。
政策委はN銀執行部の意のままに動く存在ではないためだ。
その中で、執行部の長でもある総裁の存在はやはり大きい。
しかし、米FRBや英イングランド銀行(BOE)などの世界のCの首脳人事で、各Cの組織人が一丸となって今回のN銀のように、自分たちの推挙する人物の選任を政治、経済の各方面に働きかけるという話は聞いたことがない。
欧州C(ECB)については、初代のドイセンブルク総裁の後任総裁問題で紛糾した。
だが、それはドイツとフランスというEU内の主要国同士の政治的な綱引きであり、ECBの役職員がプロパー行員からの総裁選出を目指して、各国の政治家やメディアに働きかけるような騒動ではなかった。
N銀がN伸阻止に動いたのは、非伝統的政策手段の採用を厭わないN伸の手法への危機感だったか。
これが今井だったらどうだったのか。
いや、やはり、総力を挙げて、F推薦・今井阻止で動いたのではないか。
政策の選択肢の議論としてなら、N銀執行部にも必要とあらば、新たな非伝統的手段の採用も辞さないとの指摘が今もある。
実際、N銀自体、ゼロ金利、量的緩和策などの非伝統的政策を採用したほか、金融政策ではないとの位置付けだが、株式買い入れ策も自ら世に問うた。
タイミングを逸したことでそれぞれの政策効果は十分には効かないままだが。
組織で守ったもの外聞をはばからず、組織が自己擁護のために守らんとするものとは何か。
組織の権威であり、それは自らの政策の無謬性か。
FRBの分析のように、一九九一九五年初めの時期に、思い切った金融緩和を実施すべきだったとすれば、結果論だが、そうしなかった当時の政策判断は間違いだったことになる。
当時の政策運営は総裁、M康、副総裁が大蔵OBの吉本宏、そして政策担当理事はFだった。
すでに見たように、FはFRBの分析に対して、当時の政策運営が適切だったと強調した。
適正だったとして、その後、金利政策が金利のノリ代を使い果たし、量的緩和策という未曽有の世界に踏み込んでも、デフレから脱却できないままの現状をどう説明するのか。
金融政策だけではないだろうが、この間の、この国の経済活動と政策運営に何らかの計算違いがあったからこそ、出口を見い出せないデフレの深みの中を漂い続けてきたのではないか。
八○九○年代の金融政策と政府の経済政策は、バブルの形成から崩壊、デフレ深化、そこからの脱出の困難さと続く〃日本の失敗〃を食い止められなかっただけでなく、ある意味ではそうした混乱の原因になった可能性さえある。
政府・N銀の「官僚」たちは、それを気づいているからこそ、過去の政策N銀による異例の総裁キャンペーンが、政策運営上の理由ではないとすると、結局、N銀の組織防衛だったということになりはしないか。
新N銀法下でも、「N銀は変われず」ということを証明しただけではなかったか。
それは、政策よりも組織維持を最優先する官僚機構の変わらなさに帰着する。
この変わらぬ組織の硬直性が金融政策を縛ってきた可能性もある。
変われぬ組織の論理は、「疲れた。
もう限界です」の言葉を残して自死したKが、あの小柄な背中で守ろうとしたものだったかもしれない。
恐れるあまり、政策の反省も検証も棚上げにしてきたのではないか。
事実、新N銀法成立の背景では、大蔵省の個々の不祥事事件だけではなく、バブル期の同省の政策運営の失敗に対する政治、経済界の不満の積み重なりが同省解体の政治的モメンタムを形成していたと言える。
と言って、反省も検証も棚上げしたままで、新しい船(新N銀法)を用意させて目先を変えるだけでは政策運営の息は続かない。
米国がFRBリポートなどによる日本分析を、自国の政策運営に生かしているとすれば、政府、N銀の自己分析、自己検証こそが問われる。
米国が日本を教訓にして、二○○三年に米経済のデフレ転落を防ぐ「思い切った金融・財政政策」を展開したように、徹底した政策検証によって、政策がうまくいかなかった原因を究明し、うまくいく政策を見い出さねばならない。
なぜなら、我々はまだデフレの渦中を漂っているからだ。
政策責任とは、過去の政策の失敗を悔やんでひたすら国民に頭を下げることではない。
同じ失敗を二度と起こさないために、失敗を未然防止する知見を蓄積、それを実践に結び付け、政策効果を上げてはじめて、責任を果たしたといえる。
新N銀法により政策運営の独立性を得た政策委は、本来、そうした検証から出発すべきだった。
H時代が混乱と混迷の中で過ぎ去ったとすれば、H自身は五年の任期を全うしたものの、実態は緊急対応のままだったともいえる。
そう考えると、新N銀はまだ出発しきっていないことになる。
必要な政策検証は、デフレに至る九一九五年だけではない。
混迷の元凶である八○年代後半のバブル期の金融政策についての公式の検証から始めるべきだろう。
猟官運動的な目先のキャンペーンではなく、冷静な検証の視点こそが組織の活性化、強靭化につながる。
そうした組織を改革し、開かれた中央「間違いはなかった」Hは一○○三年の三月七日と十九日の一度の会見で退任の弁を語った。
七日には、一○○○年八月のゼロ金利解除の是非を問われた。
Hは表情をほとんど変えずに答えた。
「ゼロ金利解除は、現在でも、当時の経済情勢を踏まえると、妥当な判断であったと考えているし、その後に採った措置も、間違っていなかったと思っている」。
「少し(解除のタイミングが)遅れたかもしれない」と付け加えはした。
だが、その一方で三度も「間違っていなかった」を繰り返した。
Hが、間違いではなかったと強調する理由は、解除後に景気失速の原因となった米経済低迷の評価にある。
「米国におけるIT製品の在庫状況がつかめていなかったのは、世界共通のことであって、従って、私どももそこまで過剰生産、過剰在庫になっているということは、つかみ切れていなかった面があることは確かである」第一章で見たように、N岩井時代の経営責任を問われた時の弁明にも似て聞こえる。
確かに、米IT在庫という特定分野の動向については、その時点では神のみぞ知るだったかもしれない。
しかし、第五章で見たように、解除時点での「N銀金融月報」は、米経済の資産バブルに注意を喚起していた。
政策委でも一人から反対票が投じられ、政府が議決延期請求権を行使したことを忘れてはならない。
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